今回のポイントは、
悪意があるかどうかではなく、結果として「ナルシストを見抜く」「危険サインを知る」「NPD的な人を警戒する」という語りが、大衆メディアを通して広がっている
ということです。
近年、SNSやニュース記事、動画、ポッドキャストでは、「ナルシストの見分け方」「ナルシストの危険サイン」「NPDの赤旗」「ナルシストから逃げる方法」といった情報が広がっています。
もちろん、人間関係の中で深く傷ついた人が、自分に何が起きたのかを理解しようとすることは大切です。支配、見下し、責任転嫁、ガスライティング、孤立化、感情的操作などによって苦しんだ人が、自分を守るために情報を求めるのは自然なことです。
しかし一方で、「ナルシストを見抜く」「NPDを見抜く」「危険サインを知る」という語りが広がりすぎると、別の問題が生まれます。
それは、ナルシシズムやNPDという言葉が、正確な臨床理解ではなく、関係トラブルを説明するための便利なラベルとして使われる危険です。
今回取り上げるのは、2026年4月26日にニューヨーク・ポストが報じた、俳優ヴァレリー・バーティネリ氏と臨床心理学者ラマニ・ドゥルヴァスラ氏に関する記事です。ニューヨーク・ポストは、バーティネリ氏が自身のポッドキャスト「Getting Naked」の「Know Your Narcissist」という回で、過去の関係におけるナルシシズム的な赤旗を見逃していたと語ったことを報じています。
この記事は、査読付き研究ではありません。
医学的ガイドラインでもありません。
しかし、現代社会で「ナルシストを見抜くべき」という語りが、どのようにメディアを通して広がっているのかを見るうえでは、重要な実例です。
今回の記事は「研究」ではなく、社会的拡散の実例として見る
まず、ここを正確に分ける必要があります。
ニューヨーク・ポストの記事は、NPDについての研究論文ではありません。心理学研究の結果を報じたものでもありません。俳優の個人的経験、ポッドキャストでの会話、そして臨床心理学者の発言をもとにした大衆メディア記事です。
したがって、この記事から、
「NPDの人はこうである」
「ナルシストはこうである」
「研究で証明された」
とは言えません。
しかし、別の意味で重要です。
それは、ナルシシズムという言葉が、関係トラブルを説明するラベルとして、どのように一般社会へ広がっているかを示しているからです。
ニューヨーク・ポストの記事では、バーティネリ氏が、過去の関係でナルシシズムの特徴に気づけなかったこと、自分の価値を疑うようになったこと、自分らしさを失いながら相手を喜ばせようとしていたことなどが紹介されています。また、記事は、操作、ガスライティング、孤立、感情的虐待などの経験を、後にナルシシズム的行動として理解したという文脈で報じています。
つまり、この記事の価値は、「NPDについて何かを証明する資料」ではなく、ナルシシズム言説がどのようにメディア化され、一般に広がるのかを示す資料として見るところにあります。
ヴァレリー・バーティネリ氏は何を語ったのか
ヴァレリー・バーティネリ氏は、アメリカの俳優です。ニューヨーク・ポストは、彼女が自身のポッドキャスト「Getting Naked」の「Know Your Narcissist」という回で、過去の関係について語ったと報じています。
Apple Podcastsの該当エピソード説明でも、この回は2026年4月22日に公開され、バーティネリ氏がDr. Ramani Durvasula氏と、ナルシシズム、ナルシシスティックな関係、害、警告サイン、そして「radical acceptance」について話す内容として紹介されています。
ここで大切なのは、バーティネリ氏の経験そのものを否定しないことです。
彼女が苦しんだ可能性はあります。
関係の中で自尊心が傷ついた可能性もあります。
相手との関係で、自分を見失うような苦痛を感じたことも、本人にとって重要な経験です。
しかし、その個人的経験が大衆メディアを通して広がるとき、「ナルシストの危険サインを見抜こう」という一般化されたメッセージになっていくことがあります。
ここに注意が必要です。
ラマニ・ドゥルヴァスラ氏は誰か
ラマニ・ドゥルヴァスラ氏は、アメリカの臨床心理学者、著者、心理学教授として知られる人物です。Psychology Todayのプロフィールでは、同氏はカリフォルニア州サンタモニカとシャーマンオークスで個人臨床を行う licensed clinical psychologist であり、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校の心理学教授として紹介されています。
また、本人の公式サイトでも、UCLAで臨床心理学の修士号・博士号を取得し、UCLA精神医学部門でインターンシップとポストドクトラル研修を行ったことが紹介されています。
つまり、今回のポッドキャストや報道には、一般人だけでなく、ナルシシズムや関係性の問題について広く発信している臨床心理学者が関わっています。
ただし、ここでも注意が必要です。
臨床心理学者が登場しているからといって、そのメディア記事全体が学術論文になるわけではありません。
また、ポッドキャストでの会話が、NPD全体についての確定的な科学的結論になるわけでもありません。
重要なのは、専門家の言葉が大衆メディアやSNSを通して広がるとき、どのように一般化されるかです。
「ナルシストの危険サイン」を知ること自体は悪いことではない
誤解しないでほしいのですが、「危険サイン」を知ること自体が悪いわけではありません。
危険な関係に気づくこと。
支配や操作に気づくこと。
自分の境界線を守ること。
相手の言動によって自尊心が壊されていないか確認すること。
孤立化、威圧、責任転嫁、ガスライティングのような行動に気づくこと。
これらは大切です。
被害を受けた人にとっては、自分が受けていたものに名前がつくことで、ようやく混乱から抜け出せることもあります。
だから、「危険サインを知ること」自体を否定する必要はありません。
問題は、その語りが広がる中で、
「あの人はナルシストだ」
「あの人はNPDだ」
「ナルシストは危険だ」
「NPDは人を壊す」
「NPDとは関わるな」
というように、診断名や心理学用語が断罪のラベルになっていくことです。
「ナルシストを見抜く」という語りの危うさ
現代のSNSでは、「見抜く」という言葉が非常に強く使われます。
「危険な人を見抜く」
「ナルシストを見抜く」
「モラハラを見抜く」
「サイコパスを見抜く」
「赤旗を見抜く」
このような言葉は、読者に安心感を与えます。
なぜなら、「見抜ければ傷つかずに済む」と感じられるからです。
しかし同時に、この語りには危うさがあります。
人間関係の中で違和感を持つことと、相手を診断することは違います。
相手の言動に境界線を引くことと、相手をNPDだと決めつけることは違います。
危険な行動から自分を守ることと、ナルシシズムという言葉で相手を悪者化することは違います。
「見抜く」という語りが強くなりすぎると、人は相手の行動を見る前に、相手の人格を分類しようとします。
そして、少しでも当てはまる特徴を見つけると、
「あの人はナルシストだ」
「NPDに違いない」
「危険人物だ」
と判断してしまうことがあります。
これは、NPD概念の乱用につながります。
個人的経験が、社会的ラベルに変わる瞬間
今回のニューヨーク・ポスト記事で重要なのは、俳優の個人的経験が、メディア記事として広がる点です。
バーティネリ氏が自分の経験を語ること自体は、本人の自由です。
自分の過去を整理し、自分の苦しみを言葉にすることは大切です。
しかし、著名人の発言は強い影響力を持ちます。
特に「ナルシスト」「red flags」「gaslighting」「emotional abuse」といった言葉は、SNS上で拡散されやすい言葉です。ニューヨーク・ポスト記事でも、バーティネリ氏が、ナルシシズム的な赤旗、操作、ガスライティング、孤立、感情的虐待といった文脈で過去の関係を振り返ったことが報じられています。
こうした言葉が広がると、多くの読者は自分の経験を重ねます。
「あの人もそうだった」
「自分の元恋人もNPDだったかもしれない」
「親もナルシストだったのでは」
「職場のあの人も危険かもしれない」
もちろん、その気づきが助けになることもあります。
しかし一方で、個人的経験の整理が、他者への安易なラベリングに変わる危険もあります。
NPD悪魔化との関係
この話がNPD悪魔化とどう関係するのか。
それは、ナルシシズムという言葉が、関係トラブルの説明ラベルとして広がることで、NPDやナルシシズムが「悪い人を説明する言葉」になりやすいからです。
本来、NPDは臨床的な概念です。
人を悪者扱いするための言葉ではありません。
しかし、メディアやSNSで「ナルシストの見分け方」「ナルシストの危険サイン」「ナルシストから逃げろ」という情報が繰り返されると、ナルシシズムという言葉は、臨床的な意味から離れていきます。
そして、次のような使われ方に変わっていきます。
「自分を傷つけた人=ナルシスト」
「謝らない人=ナルシスト」
「冷たい人=ナルシスト」
「支配的な人=NPD」
「別れた相手=ナルシスト」
「嫌な人=NPD」
これが、概念の乱用です。
そしてこの乱用が進むと、NPDの人全体にスティグマが向けられます。
この記事の価値は「低い根拠」ではなく「社会現象の実例」にある
今回のニューヨーク・ポスト記事は、学術的根拠としては強くありません。
評価としては、低です。
しかし、価値がないわけではありません。
むしろ、NPD悪魔化の社会的拡散を示す実例としては重要です。
なぜなら、この記事には、現代のナルシシズム言説の特徴が詰まっているからです。
著名人の個人的経験。
臨床心理学者の登場。
ポッドキャスト。
赤旗。
見抜く。
ガスライティング。
感情的虐待。
ナルシシスティックな関係。
自分を守るための知識。
これらは、現在のSNSやメディアで非常に広がりやすい要素です。
つまり、この記事は「NPDの人がどうであるか」を証明する資料ではありません。
そうではなく、ナルシシズムという言葉が、どのように一般社会の関係トラブル説明として使われ、拡散されていくのかを示す資料です。
その意味では、NPD悪魔化問題を論じるうえで重要です。
「危険サイン」を見るなら、診断名ではなく行動を見る
では、どう考えればよいのでしょうか。
答えはシンプルです。
見るべきなのは、診断名ではなく行動です。
相手がNPDかどうかを素人が見抜こうとする必要はありません。
むしろ、それは危険です。
必要なのは、
自分を尊重してくれるか。
境界線を守ってくれるか。
責任を取れるか。
話し合いができるか。
怖さを感じる関係になっていないか。
孤立させられていないか。
自分の感覚を否定され続けていないか。
相手の機嫌を取るために自分を失っていないか。
こうした具体的な行動や関係の構造を見ることです。
「この人はNPDか」ではなく、
「この関係で自分は安全か」
「この行動は許容できるか」
「境界線を守れているか」
を見たほうが、はるかに実用的で正確です。
被害者支援とNPDラベリングは違う
被害を受けた人が、自分の経験を語ることは大切です。
苦しかったこと。
怖かったこと。
自分を見失ったこと。
相手に支配されたように感じたこと。
自尊心を傷つけられたこと。
それらは尊重されるべきです。
しかし、被害者支援とNPDラベリングは違います。
被害者支援とは、苦しんだ人が安全を取り戻し、自分の感覚を回復し、必要な距離や支援を得ることです。
NPDラベリングとは、相手を「NPD」「ナルシスト」と名づけることで、その人を悪者として固定することです。
この2つは似ているようで違います。
そして、この違いを見失うと、NPDという言葉は被害者支援のための言葉ではなく、スティグマを広げる言葉になってしまいます。
ニューヨーク・ポスト報道から見える注意点
今回のニューヨーク・ポスト記事から見える注意点は、次のことです。
ナルシシズムという言葉は、著名人の経験談、ポッドキャスト、臨床心理学者のコメント、大衆メディア記事を通して、非常に広がりやすい。
そして広がる過程で、「ナルシシズムを理解する」という話が、「ナルシストを見抜く」という話に変わりやすい。
さらに、「ナルシストを見抜く」という話が、「危険な人を分類する」という話に変わりやすい。
ここに注意が必要です。
NPDやナルシシズムを理解することは大切です。
しかし、理解することと、見抜いて断罪することは違います。
この違いを守らなければ、NPD悪魔化はさらに広がってしまいます。
まとめ:「ナルシストを見抜く」より、関係の安全を見る
2026年4月26日、ニューヨーク・ポストは、俳優ヴァレリー・バーティネリ氏がポッドキャストでナルシシズムの赤旗について語ったことを報じました。その会話には、臨床心理学者で著者のラマニ・ドゥルヴァスラ氏も登場しています。
この報道は、学術研究ではありません。
しかし、「ナルシストの危険サイン」「見抜く」「ナルシシスティックな関係」という語りが、どのように大衆メディアを通して広がっているかを示す実例として重要です。
僕たちが注意すべきなのは、「ナルシストを見抜けるようになること」ではありません。
本当に必要なのは、
診断名で人を決めつけないこと。
相手の実際の行動を見ること。
自分の安全と境界線を守ること。
被害を受けた人の苦しみを尊重すること。
同時に、NPDやナルシシズムを悪魔化しないこと。
ナルシシズムという言葉は、人を理解するために使うべきものです。
人を悪者にするためのラベルにしてはいけません。
「ナルシストを見抜く」よりも、まず見るべきなのは、関係の安全です。
そして、NPDという診断名を使うなら、そこには慎重さと正確さが必要です。
つまり今回の報道は、誰かの悪意を問題にするものではなく、個人的経験や専門家の言葉が大衆メディアを通して広がることで、「ナルシストを見抜く」という語りが社会に拡散される実例として見ることができます。
ここで重要なのは、誰かに悪意があったかどうかを決めつけることではありません。俳優の経験談も、臨床心理学者の発言も、それ自体を否定するものではありません。問題は、個人的な経験談、専門家の言葉、ポッドキャスト、大衆メディア報道が組み合わさったとき、「ナルシストを見抜く」「危険サインを知る」という語りが、意図の有無にかかわらず社会に広がっていくことです。これは、ナルシシズムやNPDが関係トラブルを説明するラベルとして拡散される実例として見ることができます。
NPD悪魔化という“言葉の公害”は、SNSだけでなく大衆メディアを通しても広がってきました。 しかも、専門家側のスティグマや逆転移の問題も指摘されているように、専門家でさえ見抜きにくかった問題です。 だから、多くの一般の人がその情報を鵜呑みにしてしまったことには、仕方のない面もあったと思います。 ただ僕は昔から、周囲に流れている情報をそのまま受け取らないところがありました。子どもの頃から、支配的な大人に「本当に言うことを聞かない子だ」と言われるくらい、一方的な決めつけを跳ねのける感覚が強かった。 だからこそ、NPDを悪者扱いする流れを、裏側から見ることができたのだと思います。
僕は昔から、「周りがそう言っているから」という空気に染まれない人間でした。
子どもの頃、少年院で「こう書くべきだろう」と空気で従わせようとされたことがあります。僕はその圧力に強く反発しました。
その後、もっと厳しい場所で、本当に真っ直ぐな人に出会い、そこで初めて自然に「変わりたい」と思えました。
支配や同調圧力で人は本当には変わらない。
体罰でも人は変わらない。
単なる矯正教育だけでも、人は本当には変わらない。
そこに本物の関わりがあって、心がある。
だから人は変わるのだと思います。
だから僕は、NPDを悪者扱いする社会の空気にも染まりませんでした。
2014年頃にはすでに、「自己愛性パーソナリティ障害の人を追い詰めているモラルハラスメント加害者」という趣旨の記事も投稿していました。
僕はその頃から、NPDの人が一方的に悪者扱いされ、追い詰められていることを、おかしいと確信していました。
一般の人も、専門家も、大衆メディアも、その空気に流されているように見えた。
でも僕は染まらなかった。
おかしいものは、おかしい。
その空気を跳ねのけてきた自分を、僕は今、少し好きでいられます。
参考文献・参考リンク
New York Post. Valerie Bertinelli says she missed narcissistic red flags in relationships: ‘Made me question my self-worth’. Published April 26, 2026.
https://nypost.com/2026/04/26/media/valerie-bertinelli-says-she-missed-narcissistic-red-flags-in-relationships/
Apple Podcasts. Know Your Narcissist — Getting Naked: The Podcast. Published April 22, 2026.
https://podcasts.apple.com/us/podcast/know-your-narcissist/id1886219604?i=1000763117780
Psychology Today. Ramani Durvasula, Ph.D.
https://www.psychologytoday.com/us/contributors/ramani-durvasula-phd
Doctor Ramani Official Website. About.
https://doctor-ramani.com/about/
参考文献・外部リンク
- 01. https://nypost.com/2026/04/26/media/valerie-bertinelli-says-she-missed-narcissistic-red-flags-in-relationships/ https://nypost.com/2026/04/26/media/valerie-bertinelli-says-she-missed-narcissistic-red-flags-in-relationships/
- 02. https://podcasts.apple.com/us/podcast/know-your-narcissist/id1886219604?i=1000763117780 https://podcasts.apple.com/us/podcast/know-your-narcissist/id1886219604?i=1000763117780
- 03. https://www.psychologytoday.com/us/contributors/ramani-durvasula-phd https://www.psychologytoday.com/us/contributors/ramani-durvasula-phd
- 04. https://doctor-ramani.com/about/ https://doctor-ramani.com/about/



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