「加害者が“過去を語るな/もう水に流せ”と迫るのはなぜか?」「それは被害者の回復を妨げないか?」という点について、研究や専門家の知見で裏付けします。
菅原隆志過去を語ることでしか癒やされないケースもあるのに、そんな人に対し付き纏って過去を振り返らせないようにする怪しい人もいます。そういう人に惑わされないよう、自分の成長のために過去の語りが重要なのであれば、他人に言葉に流されずに自分の心に従って向き合うと良い成長が待っている場合もあります。僕は振り返って本当に良かったと思っています。
1) 加害者が“語らせない”のは、責任回避と支配の継続という加害戦略
- DARVO(否認→攻撃→被害者と加害者の立場の反転)
加害者が責任追及を受けた際に典型的に用いる防衛戦略で、被害者の信頼性を下げ、加害者の非を軽く見せます。観察者実験でも、DARVOを使うと「加害者はそこまで悪くない/被害者は信じにくい」という評価が生じやすいことが示されています。Taylor & Francis OnlinePubMedダイナミクスラボ - ガスライティング(記憶・知覚の否定と語りの支配)
親密な権力関係の中で、加害者が現実認識の“物語”を支配し、被害者を「過去に固執している」「大げさだ」と位置づけて沈黙させることが社会学的に整理されています。SAGE Journals+1 - コアーシブ・コントロール(関係全体を通じた支配)
暴力は氷山の一角で、日常的な威圧・孤立化・管理(話す/相談する相手の制限や“語り”の封じ)で相手の自律性を奪う枠組みが提案されています。Office of Justice Programs - 「軽視・否認・被害者非難」は古典的な加害戦術
いわゆるパワー&コントロール・ホイールでも、加害者の常套句として「大したことじゃない」「そんなことは起きていない」「お前のせいだ」が明記されています。The Duluth ModelAbuse Intervention
2) 「語ること」を妨げる/否定的に反応するほど、被害者の症状は悪化しやすい



僕自身、過去を語り、書くことで心を癒してきたのでよく分かりますが、被害者の語ることを妨げると症状は悪化しやすいです。それは未処理未消化の感情を増やすことでもあります。徹底して語って、解放して、処理して、消化して、そして力を身につけてしまおう!それが心の健康に寄与します。ただし悪化する場合は無理して行う必要はありません。
- 否定的反応(責める・矮小化・話題逸らし)は、PTSD・抑うつ等の悪化と関連
性的暴力の開示研究では、周囲や制度からの否定的反応が、PTSD・うつ・飲酒問題などの悪化と有意に関連することが繰り返し示されています。PMC+1サイエンスダイレクト - 制度側の“沈黙の強制”(インスティテューショナル・ビトレイアル)も有害
組織が被害申告を抑圧・無視すると、心理的被害が増すことが示され、沈黙の強要が二次被害を生むと論じられています。ペンシルバニア大学英語学科ダイナミクスラボ - 開示にはバリアが多く、“遅れて語る”のはむしろ一般的
児童期性虐待などでは、成長後まで開示が遅れるのが多数派であるとするレビューが合意的見解を示しています。遅い開示をもって「過去にとらわれている」と切り捨てるのは不当です。CHILD USAPMC
3) 回復の実務:安全な条件で“過去を語り・処理する”治療は推奨されている
- 国際ガイドラインはトラウマ焦点心理療法を推奨
NICEガイドライン(英国)やレビューは、持続エクスポージャ(PE)、認知処理療法(CPT)、トラウマ焦点CBT、EMDRなど、外傷記憶を安全に処理・再文脈化する介入を強く推奨しています。これは「語る/記憶を扱う」ことが回復プロセスの中核であることを示します。NICEPMC
要点
- 「過去を語るな」「忘れろ」「被害者は言い訳している」という沈黙の強要は、加害者が責任回避と支配維持のために用いる典型戦略(DARVO・ガスライティング・コアーシブコントロール)として学術的に説明されています。Taylor & Francis OnlineSAGE JournalsOffice of Justice Programs
- 被害の“語り”を否定・妨害する反応は、被害者の症状悪化に結びつくことが多数の研究で示されています。PMC+1
- 安全な場・専門的枠組みで過去を扱うことは、標準治療の柱です。被害者の選択とペースを尊重しつつ、語る権利を奪わないことが回復を支えます。NICEPMC
- 1. Taylor & Francis Online https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10926771.2020.1774695
- 2. PubMed https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37154429/
- 3. ダイナミクスラボ https://dynamic.uoregon.edu/jjf/articles/hfjiv2023.pdf
- 4. SAGE Journals+1 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0003122419874843
- 5. Office of Justice Programs https://www.ojp.gov/ncjrs/virtual-library/abstracts/coercive-control-how-men-entrap-women-personal-life
- 6. The Duluth Model https://www.theduluthmodel.org/wheels/understanding-power-control-wheel/
- 7. Abuse Intervention https://abuseintervention.org/wp-content/uploads/2022/01/Power-and-Control-Wheel.pdf
- 8. PMC+1 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5468506/
- 9. サイエンスダイレクト https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0272735818305270
- 10. ペンシルバニア大学英語学科 https://web.english.upenn.edu/~cavitch/pdf-library/Smith_and_Freyd_Instituional_Betrayal.pdf
- 11. ダイナミクスラボ https://dynamic.uoregon.edu/jjf/institutionalbetrayal/
- 12. CHILD USA https://childusa.org/wp-content/uploads/2024/06/Delayed-Disclosure-2024.pdf
- 13. PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6429637/
- 14. NICE https://www.nice.org.uk/guidance/ng116/chapter/recommendations
- 15. PMC https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6224348/
- 16. SAGE Journals https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0003122419874843






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