家で、ご飯を自由に炊くことさえできなかった子供がいました。
その子供は、家の外に居場所を求め、不良の世界へ入り、やがて人を傷つける側にもなりました。少年院を経験し、信じた人に裏切られ、それでも人として扱ってくれた人との出会いによって、もう一度、自分の人生を選び直そうとしました。
その子供は、僕です。
2026年9月13日、Kindle本『暴力団を消せば、犯罪も消えるのか』を出版しました。
この本で考えたのは、暴力団を擁護することではありません。罪は罪であり、被害を受けた方の安全と回復が先です。その原則を守ったうえで、「見える組織を弱くしたあと、人、金、命令、欲、支配の方法はどこへ移ったのか」を、一人の人生からたどりました。
見える組織が小さくなったあと、何が残ったのか
警察庁の確定値によると、暴力団構成員と準構成員等を合わせた「暴力団勢力」は、2016年末の39,100人から、2025年末には17,600人まで減少しました。
一方、警察庁『令和7年の犯罪情勢』によると、2025年の刑法犯認知件数は774,142件で、前年比4.9%増。2021年の戦後最少から4年連続で前年を上回っています。
ここで大切なのは、この二つの数字だけで「暴力団が減ったから犯罪が増えた」とは言えないことです。統計は同時期の変化を示しますが、因果関係まで自動的に証明するものではありません。
それでも、考えるべき問いは残ります。
看板が消えれば、犯罪を生む孤立、家庭の傷、居場所の欠如、利益を求める欲、誰かを支配する技術まで、同時に消えるのでしょうか。
警察庁『令和7年警察白書』は、暴力団のような明確な組織構造を持たず、中核部分を匿名化し、SNSなどで実行役をその都度集める「匿名・流動型犯罪グループ」を、治安上の脅威として説明しています。見える組織が小さくなった事実と、見えにくい犯罪構造が問題になっている事実。その間にどのような関係があるのかは、断定ではなく、検証し続けるべき社会の問いです。
「使い捨ての駒」は、言葉ではなく流れの問題
僕は以前の本の制作稿で、「使い捨ての駒」という言葉を使いました。
著者保管ファイルで確認できる2021年12月更新の稿には、最初は良くしてもらい、断りにくくなり、最後には危険な役割を負わされて捨てられる人間関係を書いています。これは第三者機関による時刻証明ではなく、この表現を誰が最初に使ったかを証明するものでもありません。
重要なのは、言葉の早さではなく、その内側で起きる流れです。
警察庁が2023年7月に公表した『犯罪実行者募集の実態――少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実』には、応募者から個人情報を得る、本人や家族への危害を示して離脱を妨げる、危険な実行を繰り返させる、逮捕されれば切り捨てる、という過程が記されています。
旧著で僕が見ていた「親切や居場所が断れなさへ変わり、利用する側ほど安全な場所へ退き、危険だけが弱い立場の人へ渡される」という方向と、現在の公的資料にある流れは、言葉だけでなく複数の段階で重なります。
人はなぜ、危険だと気づいても抜けにくくなるのか
ここを「本人が弱いから」の一言で終わらせると、同じ被害と加害を防ぐ材料を失います。
心理学には「所属欲求」という言葉があります。人には、安定した相互的な関係の中にいたいという基本的な動機がある、という考え方です。孤立しているときに、自分を認めてくれる場所が現れれば、その意味は大きくなります。
また、「フット・イン・ザ・ドア」は、小さな依頼を受け入れたあと、より大きな依頼にも応じやすくなる傾向を示す古典的な研究です。もちろん、これらの研究は闇バイトや暴力団への勧誘を直接調べたものではありません。しかし、小さな好意や依頼が、なぜ断りにくい関係へ変わり得るのかを考える補助線にはなります。
心理学の言葉は、誰かへ診断名を貼るためのものではありません。「どこで自由が失われたのか」「どの段階なら相談できたのか」を見つけるために使うものだと、僕は考えています。
罪を問うことと、犯罪へ向かう道を断つこと
僕は、罪を軽くすればよいと言いたいのではありません。被害を受けた方を守り、行為の責任を問うことは欠かせません。
同時に、犯罪をした人がどこから流れ込み、誰に利用され、どの時点なら止められたのかを見る必要があります。孤立や家庭の痛みを抱えた人を、ただ社会の外へ押し出し続ければ、その人を利用したい誰かが先に居場所を差し出すかもしれません。
組織を取り締まることと、犯罪をしなくても生きられる受け皿を作ることは、別の仕事です。どちらか一方だけでは、根本的な犯罪抑止には届きません。
これは、犯罪者を被害者と同じ位置に置く話ではありません。被害者の安全を最優先にしながら、次の被害者を生まないために入口まで見る、という話です。
「本を読め。長文に慣れろ」と伝え続ける理由
人を使い捨てる仕組みは、これからさらに巧妙になる可能性があります。短い動画、秘密の連絡、簡単な仕事、急がせる言葉、仲間だけに通じる合図。入口が軽く見えるほど、その先にいる人と、利益と危険の流れを長く追う力が必要です。
だから僕は、ずっと「本を読め。長文に慣れろ」と伝えてきました。
長い文章を読むことは、前提と結論、約束と抜け穴、好意と支配を、途中で切らずに追う練習になります。すぐに反応せず、「これは誰が得をし、誰が危険を負う話なのか」と一度立ち止まる力になります。
学ぶことは、自分を守るためだけではありません。自分が使い捨てにされず、誰かを傷つけるための駒にもならないことは、家族や大切な人を守る愛情にもつながると、僕は思います。
経験・事実・研究・予測を、同じ箱に入れない
本書では、次の四つをできる限り分けました。
- 僕自身が見聞きし、経験したこと
- 警察庁などの公的資料で確認できる事実
- 心理学や犯罪研究から得られる補助線
- それらを重ねた僕の解釈と、将来への予測
巻末には34件の資料・参考文献を収録し、リンク先と、本文で利用した主張の範囲を一件ずつ再確認しています。研究が直接示していないことを、研究で証明されたとは書いていません。経験は研究の代わりではなく、研究も経験の代わりではないからです。
文章は僕自身の表現と考えを土台に、2026年9月時点で利用できる最高性能クラスの対話型生成AIを編集補助として使い、読みやすく整えました。AIに結論を任せたのではなく、僕自身が原文と資料へ戻り、文脈、根拠、採否を確認し、最終判断をしています。
この本を届けたい方
- 「取り締まれば問題は終わる」という説明だけでは足りないと感じる方
- 闇バイトやトクリュウで、なぜ実行役だけが次々と入れ替わるのか考えたい方
- 非行、家庭環境、孤立、所属、支配、更生のつながりを知りたい方
- 子供や大切な人が「使い捨ての駒」にされないための視点を持ちたい方
- 断罪か擁護かではなく、被害を減らす根本的な道を考えたい方
書籍情報

『暴力団を消せば、犯罪も消えるのか』
元非行少年が見た「裏社会の秩序」と、半グレ・トクリュウ時代に考える必要悪と社会統制
著者:菅原隆志
Kindle版・133ページ
発売日:2026年9月13日
確認時価格:350円
Kindle Unlimited対象
ASIN:B0H98FNKNY
価格・配信状況などの最新情報はAmazonの商品ページでご確認ください。
暴力団を消しても、犯罪まで消えるとは限りません。犯罪を生む孤立や家庭の傷、居場所の欠如を残せば、悪は看板を外し、地下化・匿名化し、一般社会の人を「使い捨ての駒」にするかもしれません。
罪を問うことと、犯罪へ流れる根を断つこと。その両方を見ることが、本当の犯罪抑止へ近づく一歩になると、僕は考えています。
参考資料
- 警察庁『令和7年警察白書』匿名・流動型犯罪グループの情勢
- 警察庁『令和7年警察白書』特集に当たって――末端実行者の「使い捨て」
- 警察庁『犯罪実行者募集の実態――少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実』
- 警察庁『令和7年の犯罪情勢』
- 警察庁『令和7年における組織犯罪の情勢』確定値版
- 米国の社会心理学者ロイ・バウマイスター、マーク・リアリーによる所属欲求のレビュー(1995年)
- 米国の社会心理学者ジョナサン・フリードマン、スコット・フレイザーによるフット・イン・ザ・ドア研究(1966年)
※本記事および書籍は、特定の個人への診断、医療・法律上の助言、犯罪行為の擁護を目的とするものではありません。
参考文献・外部リンク
- 01. 警察庁の確定値 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/kikakubunseki/r7jyousei_shuusei.pdf
- 02. 警察庁『令和7年の犯罪情勢』 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/crime/situation/r7_hanzaijyousei__.pdf
- 03. 警察庁『令和7年警察白書』 https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb4411000.html
- 04. 『犯罪実行者募集の実態――少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実』 https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/yamibaito/yamibaitojirei.pdf
- 05. 「所属欲求」 https://doi.org/10.1037/0033-2909.117.3.497
- 06. 「フット・イン・ザ・ドア」 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5969145/
- 07. https://www.amazon.co.jp/dp/B0H98FNKNY https://www.amazon.co.jp/dp/B0H98FNKNY
- 08. 警察庁『令和7年警察白書』特集に当たって――末端実行者の「使い捨て」 https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bbf000000.html



Conversation
Be the First Voice
読んだだけで終わらせないでください。
感じたことを、コメント・発信・メモなど、何かの形で外に出してみてください。
反応した瞬間から、変化は始まります。
この場所に、最初の感想や気づきをそっと残せます。