「変わりたい」と思うことと、実際に変わるために動くことは違います。
変わる必要があると認める。自分の問題を説明できるようになる。それは大切な出発点です。しかし、そこで終われば、日常の行動は以前のまま残ることがあります。
今回、僕が考えたいのは、変化に伴う不快な気持ち、手間、そして実行する責任を、誰が引き受けているのかということです。変化が進まない理由は一つではありませんが、この違いは見落とせません。
自分で変わるとは、一人で全てを抱えることではありません。助けを借りながらも、自分が選び、実行し、うまくいかなかった後を見直していくことです。
「変わった自分がほしい」と「変わる過程を引き受ける」は違う
変われば、今より楽になるかもしれない。信頼してもらえるかもしれない。大切なものを守れるようになるかもしれない。そうした結果を望むことは自然です。
ただ、その結果に至るまでには、面倒な確認をする、いつもの反応を一度止める、失敗を認めてやり直すなど、気が進まない作業が含まれることもあります。
ここで、次のような状態が起こり得ます。
自分で変わる必要は頭では認めている。けれど、変化に伴う不快・手間・実行責任は、自分では引き受けず、誰かに肩代わりしてほしい。
厳しく言えば、変わった結果だけを求め、その過程は他人に丸ごと引き受けてもらおうとする期待には、幼い部分があります。僕が問題にしたいのは、その期待のあり方です。変化に困っている人全体を、幼稚な人だと決めつけたいのではありません。
心身の不調、障害、生活の厳しさ、方法の分からなさによって、動きたくても動けないこともあります。それらと、自分が担える役割まで他人へ預け続けることは、分けて考える必要があります。
「大変だから助けてほしい」と、「大変な部分は全てあなたがやって、私は変わった結果だけ受け取りたい」は、同じではないのです。
心理学でも、意思と行動は分けて考えられている
心理学には、「意図と行動の隔たり」という論点があります。何かをしようと考えることと、実際にそれを行うことの間には、ずれがあるということです。
トーマス・L・ウェッブ(英国・マンチェスター大学の心理学研究者、論文発表当時)とパスカル・シーラン(英国・シェフィールド大学の心理学研究者、当時)による2006年のメタ分析では、47件の実験を統合しました。行動しようとする意図を強める介入は、その後の行動にも影響しましたが、行動の変化は意図の変化より小さいという結果でした。メタ分析とは、複数の研究結果を統計的にまとめて検討する方法です。大学の原論文紹介・抄録
これは「決意に意味がない」という研究ではありません。また、行動できない理由を、全て甘えで説明する研究でもありません。
僕がここから考えるのは、決意が生まれたことを大切にしながら、その決意を実行できる形にする作業が別に必要だということです。
「分かった」「変わる」と言えたことだけで、変化が完了したわけではありません。その次に、何を変えたのかが問われます。
不快をなくすことが最優先になると、変化が止まることがある
変わる過程では、自分の間違いに気づいて恥ずかしくなることもあります。慣れたやり方を手放すことが不安になる場合もあるでしょう。
その気持ちが出ること自体は、悪いことではありません。問題になるのは、その不快から逃れることだけが最優先になり、必要な行動まで避け続けてしまう場合です。
心理学者スティーブン・C・ヘイズ(米国・ネバダ大学リノ校、論文発表当時)らが整理した、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT:大切にしたい方向に沿う行動と、不快な感情との関わり方を重視する心理療法)には、「体験の回避」という概念があります。嫌な感情や考えを避けようとすることが、かえって大切な行動や生活を狭めてしまう場合を考える概念です。原論文の書誌・抄録
たとえば、指摘を受けて気まずくなったとき、必要な修正よりも、その場の気まずさをなくすことばかり考える。謝って話を終えれば一時的には楽になっても、行動が同じなら、元の問題は残ります。これは、研究でそのまま検証された場面ではなく、概念を日常に当てはめた説明です。
大切なのは、不快な気持ちが完全に消えるまで待つことではなく、その気持ちがあっても、今できる修正を一つ選べるかということです。
同じ理論でいう「心理的柔軟性」は、今の気持ちや状況に気づき、大切な方向に合わせて、行動を続けたり変えたりできることです。これは、何でも我慢することとは違います。概念を整理した原論文
危険な場から離れること、休むこと、支援を求めることが必要な場合もあります。苦痛を強く感じるほど成長しているわけでも、苦しみ抜かなければ本気ではないわけでもありません。
責任を持つことは、自分を責め続けることではない
「自分で変わる」と聞くと、過去も現在も全て自分が悪いのだと感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、僕が伝えたいのは、そういう話ではありません。
自分が傷ついた原因が、他人の行為や育った環境にあったとしても、その事実をなかったことにする必要はありません。被害を受けた人が、相手の行為の責任まで背負う必要もありません。
そのことと、これから自分が担える行動を選び直すことは、別の話です。
責任を持つとは、「自分はだめだ」と責め続けることではなく、「では、次をどうするか」に参加することだと、僕は考えています。
方法を一緒に考えてもらう。作業を手伝ってもらう。必要な支援や環境調整を求める。そうした助けと、自分が変わる主体であることは両立します。
支援を受けることと、自分の役割まで全て預けることを、混同しないことです。
本気を「大きな宣言」ではなく「次の一回」にする
では、何から始めればよいのでしょうか。
僕は、まず「変わる」を、次の一回で実行できる行動にすることが大切だと思います。
心理学には「実行意図」という方法があります。「もしこの場面になったら、この行動をする」と、実行のきっかけと行動をあらかじめ結びつける計画です。
ピーター・M・ゴルヴィツァー(ドイツ・コンスタンツ大学の心理学研究者)とシーランによる2006年のメタ分析では、94の独立した検証をまとめ、こうした計画が目標達成を助ける効果を報告しています。ただし、対象や課題の異なる研究の平均であり、誰でも同じように変われるという保証ではありません。大学が公開する原論文情報
次の四つは、研究の結果そのものではなく、僕なりに日常の実践へ落とし込んだ手順です。
- 変えたい行動を、一つに絞る。
「ちゃんとする」ではなく、「返事をする前に、相手の要点を一文で確認する」のように、実際の動きで表します。 - 場面と行動を結びつける。
たとえば、「反論したくなったら、まず『こういう意味ですか』と確認する」と決めます。これは架空の練習例です。 - 自分が担う部分と、借りたい支援を分ける。
「確認する言葉は一緒に考えてもらう。会話で確認するのは私が行う」というように、実行する役割を曖昧にしません。 - できなかった後に、修正を一つ行う。
「また失敗した」で終えず、「途中で反論してしまったので、今から聞き直す」「次は確認の言葉を見える場所に置く」など、やり直しや準備につなげます。
難しすぎたなら、行動を小さくする。体調や環境に無理があったなら、条件を調整する。その見直しも、変わるための行動です。
一度できなかったことだけで、本気ではなかったと決める必要はありません。大切なのは、失敗を隠したり、決意を言い直すだけで終えたりせず、次の実行につながる変更をすることです。
「変わる」の主語を、自分に戻す
もう一つ、僕が大切だと思う見方があります。それは、変化が進む過程で、誰が考え、誰が実行し、誰が確認や修正を担っているかを見ることです。
周囲が毎回、課題を見つけ、方法を調べ、促し、後始末までしているなら、本人の「変わる」という言葉と、実際の役割が離れている可能性があります。ただし、それだけで本人の動機を決めず、必要な支援と、自分で担える部分を具体的に確かめることが大切です。
変化が進まない事情を理解することは必要です。しかし、事情を説明することが、実行しないままでいることの説明だけになっていないかは、見直せます。
厳しい言い方になりますが、どれほど理解してもらっても、周囲に気持ちを分かってもらっても、それだけでは、自分が次に行う動作の代わりにはなりません。
変わるために必要なのは、自分を嫌いになることではありません。変化に必要な行動と、その後の見直しを、自分の側にも引き受けることです。
最後に、自分へ一つ問いかけてみてください。
「変わりたい」と言ったあと、今の私が実際に引き受ける行動は何だろう。
大きなことを答える必要はありません。一つ確認する、一つ片づける、必要な助けを具体的に頼む。その小さな一歩でも、決意を行動へ移す意味があります。
「いつか誰かが変えてくれる」から、「助けを借りながら、今できることを自分で行う」へ。
僕は、その引き受け方の変化こそが、本当に変わっていくための大切な一部だと考えています。
参考文献
- ウェッブ/シーラン(2006)「行動しようとする意図を変えると、行動も変わるのか――実験的証拠のメタ分析」(題名は内容が伝わるように訳したもの)。原題:Does changing behavioral intentions engender behavior change? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin(心理学の学術誌), 132(2), 249–268。PubMedの原論文情報
- ヘイズほか(2006)「アクセプタンス&コミットメント・セラピー――モデル、過程、結果」(同上)。原題:Acceptance and commitment therapy: Model, processes and outcomes. Behaviour Research and Therapy(行動研究・心理療法の学術誌), 44(1), 1–25。原論文・DOI
- ゴルヴィツァー/シーラン(2006)「実行意図と目標達成――効果と過程のメタ分析」(同上)。原題:Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology(実験社会心理学の学術論文シリーズ), 38, 69–119。原論文・DOI
※本稿は、研究の結果と、そこから僕が考える日常での実践を分けて紹介しています。特定の人の性格や動機を判定する記事ではなく、心理療法や特定の教材の効果を保証するものでもありません。
参考文献・外部リンク
- 01. 大学の原論文紹介・抄録 https://research.manchester.ac.uk/en/publications/does-changing-behavioral-intentions-engender-behavior-change-a-me/
- 02. 原論文の書誌・抄録 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16300724/
- 03. 概念を整理した原論文 https://doi.org/10.1016/j.brat.2005.06.006
- 04. 大学が公開する原論文情報 https://www.socmot.uni-konstanz.de/publications/implementation-intentions-and-goal-achievement-meta-analysis-effects-and-processes
- 05. PubMedの原論文情報 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16536643/
- 06. 原論文・DOI https://doi.org/10.1016/S0065-2601%2806%2938002-1


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