Sound Notes 良心
猫のこすけが、同じご飯を、僕の部屋ではきれいに食べました。
その小さな出来事が、僕に子どもの頃の食卓を思い出させました。そして、長い間、自分がなぜこんなにも苦しかったのかを、もう一度考えるきっかけになりました。
この記事は、自分の経験を振り返り、自己理解を深め、これからどんな暮らしを選びたいのかを考えるために書いています。ここに書くのは、僕の人生や関係のすべてではなく、その一部分です。同居人には、僕が病気で助けを必要とした時期に支えてもらったこともあります。そのことと、今の生活の中で感じている苦しさの両方を、大切に扱いたいと思っています。

食べなかったご飯を、僕の部屋では食べたこすけ
ある日、同居人がこすけの器にウェットフードを入れて置いていました。僕には、それが、こすけの様子を十分に気にかけないまま、ただご飯だけを置いたように感じられました。
その後、こすけは僕の部屋に来ました。僕は、ご飯を食べたのかなと思って器を見に行きました。すると、一口も食べていませんでした。
同居人は、さっきカリカリを食べたからお腹が空いていないのだと思う、と言いました。でも、僕が確認した限りでは、カリカリの量も減っていませんでした。
そこで僕は、同じ器をそのまま自分の部屋に持ってきて、「食べるかい」と声をかけました。すると、こすけはご飯をきれいに食べたんです。
こうしたことは一度だけではありません。僕は、家の中の重たい雰囲気や、食べる場所の安心感も、こすけにとって関係しているのではないかと考えています。
ただ、この時に変わったのは場所だけではありません。僕がそばにいたこと、声をかけたこと、時間が少し経ったことなどもあります。こすけが何を感じ、なぜその時に食べなかったのかを、僕が一つに決めつけることはできません。
それでも、「ご飯を置いたから、それで終わり」ではなく、実際に食べられたか、どんな場所なら落ち着けるかを見ていくことは大切だと思います。米国の猫の獣医療団体も、猫が食事中に安心できる環境を整え、実際に食べているかを確認することを勧めています。猫の食事環境についての資料
ウェットフードが食べられないまま長く置かれることも、僕は気になります。今回、何時間も放置されたということではありません。食べ残しに気づき、その後を考えることが必要だという意味です。
子どもの頃、安心して食べられなかった食卓
この出来事から、僕は、自分が子どもの頃に過ごした家の食卓を思い出しました。
僕の育った家庭では、ご飯の時間に「一言もしゃべるな」と言われ、父親がにらむような重たい空気をつくっていました。少し右を向いたり左を向いたりするだけでも実際に怒られ、黙って前を向いて食べなければなりませんでした。僕にとって、家族との食事は、楽しい団らんというより、緊張する時間でした。
炊飯器に、固まってカピカピになった古いご飯が入っていることもありました。口の中でガリッとする感触に、僕は吐き気を覚えました。だから新しくご飯を炊こうとすると、「古いご飯を食べろ」と怒られたんです。冷蔵庫に入っていた賞味期限や消費期限の切れたものを食べるように言われたこともありました。
今振り返ると、食べ物があるかどうかだけでなく、安心して食べられること、自分の嫌だという感覚を受け止めてもらえることが、僕には必要だったのだと思います。
僕がTK369名義で発表した曲「良心」には、こんな言葉があります。
小さな「いやだ」が 聞こえたら
「我慢しろ」で 終わらせるな出典:TK369「良心」歌詞より
固くなったご飯を食べたくない。安心して食べたい。そうした子どもの訴えに、大人が耳を傾けること。僕の経験と、この歌詞はそこにつながっています。今、こすけが食べていないことに気づいた時も、目の前の小さな訴えを、そのまま置き去りにしたくありませんでした。
こすけの食事を見た時に苦しくなったのは、目の前の出来事だけではなく、こうした記憶にも触れたからかもしれません。
一生懸命勉強して、二番になっても否定された
僕は子どもの頃、親に認めてもらいたいと思っていました。だから、勉強も一生懸命やりました。
夏休みには、ほかの子たちが遊んでいる中で、朝から夕方まで、トイレと食事の時以外は机から動くなと言われ、家で勉強していました。「一番になれ」と言われ、予習や復習もしました。
小学生の時、算数でクラス二番になったことがあります。それでも、「根性なし」「二番なんて何の意味もない」と言われました。
今の僕は、もし一番になっていたとしても、今度はほかの教科でも一番でなければ意味がない、というように言われたのではないかと想像します。これは、実際に起きたことではなく、当時のほかの場面でも否定が繰り返されていた経験から、今の僕が考えていることです。本当はどう言われたかは分かりません。
父親自身の劣等感や抱えていた問題のはけ口として、僕が否定されていたのではないか、とも考えます。ただ、父親の心の中までは確かめられません。それでも、僕が努力した後にも否定され、傷ついた経験は、僕の中に残っています。
9歳で転校した時、服を買ってくれたのは先生だった
以前の著書でも触れたことですが、9歳で転校した時には、服を買ってもらえず、穴の開いた服を着ていました。その時、学校の先生が、僕にジャージを買ってくれました。確か、二着ほどだったと思います。
親にお金がなかったわけではありません。それでも、子どもがどんな服で学校へ行くかということに、関心を向けてもらえませんでした。先生は、その服のままで学校生活を送る僕のことを心配してくれたのだと思います。
家で気にかけてもらえなかったことに、家の外の大人が気づき、実際に動いてくれた。僕の子ども時代には、そういう経験もありました。大人が子どもの困りごとに気づき、守る側になることは、こうした具体的な行動の中にあると思います。
新聞配達を始めた僕に、家の外の大人は声をかけてくれた
子どもの頃、おやつやお小遣いをもらえた時期もありましたが、全くもらえない時期もありました。自分で使えるお金が欲しくて、中学生になったら新聞配達をしたいと思いました。
僕は自分で新聞店に頼みに行き、北海道・函館で、小学校六年生の終わり頃から配達をさせてもらいました。当時の給料は、月に三万五千円ほどでした。
配達先の温泉街では、大人の人たちから「偉いね」「いい子だね」と声をかけてもらいました。自分がやっていることを見て、認めてくれる人がいたんです。
ところが、家では違いました。親は自分の給料と僕のアルバイト代を比べ、そんな安い給料で新聞配達をしている、というように否定しました。
なお、僕は十四歳の時にも、別の場所で新聞配達をしています。その時は福島県で、給料は月に二万五千円ほどでした。函館で小学生の終わり頃に始めた配達とは、別の時期の話です。
勉強でも新聞配達でも、僕は自分なりに頑張っていました。それでも、家では繰り返し否定されました。
今の出来事が、昔の苦しさにつながることがある
過去のつらい経験を思い出させる手がかりは、「トラウマ・リマインダー」と呼ばれることがあります。場所、音、におい、会話や状況などがきっかけになり、昔の記憶や、その時に感じた苦しさがよみがえることがあります。米国退役軍人省の国立PTSD(心的外傷後ストレス障害)センターも、こうした手がかりについて説明しています。トラウマを思い出させる手がかりについて
だからといって、僕の状態をこの記事だけで診断することはできません。また、過去の記憶が重なることと、今の生活で実際に困っていることは、両立します。
僕は今、こすけが食べていないことに気づき、そのままにしたくないと思いました。同時に、僕自身が安心して食べられなかった子ども時代も思い出した。二つが重なったからこそ、この出来事は僕にとって、ただの一回の食事以上の重さを持ったのだと思います。
ここでいう温かさは、猫に人間と同じ気持ちを決めつけることではありません。その子の様子を見て、食べられたかを確かめ、安心できる条件を考え続けることです。
悪者にされる中で、生き延びようとしていたのかもしれない
僕は家族の中で、やっていないことをやったと言われるなど、悪者として扱われてきました。僕はこれを、自分が「悪魔化される」経験として表現してきました。
家族の中で、一人が問題の原因であるかのように扱われることを、「スケープゴート(身代わり)」という言葉で考えることがあります。僕自身、悪者として扱われる立場の中で、生き延びようとしていた面があったのかもしれません。
これは、僕が自分の人生を理解するための見方です。言葉をつけただけで、すべての出来事の原因や、周囲の人の心の中が確定するわけではありません。
それでも、長年にわたって経験した否定や悪者扱いを、一つずつ見つめ直し、自分の言葉で説明できるようになってきたことは、僕にとって大きな変化です。
良心を守ろうとして、傷つけられる苦しさ
僕は、自分には良心があるほうだったと思っています。人や動物が苦しんでいたら、そのままにしたくない。おかしいことが起きていたら、見過ごさずに向き合いたい。そう思って行動してきました。
ところが、その良心がことごとく傷つけられるようなことが起きました。嘘や歪められた話によって僕が悪者にされ、その見方を共有する人たちもいました。僕が「悪魔化」と呼んできた経験には、こうしたことも含まれています。
良心を持って行動すると傷つけられ、悪者にされる。そうした環境の中で、自分の心まで同じ方向に染めずに守っていくのは、とても大変でした。僕は、その心を一人で守ってきた部分もあります。だからこそ、良心を守ろうとしている人を、周りが守ることの大切さを伝えたいのです。
助けてもらったことがあっても、苦しい関係はある
今の同居人との暮らしについても、僕は長い間、複雑な気持ちを抱えてきました。約20年の関わりの中では、困っていることを伝えても必要な行動が変わらないことが多く、過去には問題を指摘した僕の方が悪者にされることもありました。
嫌だ、苦しいと思うことがある。一方で、僕が長く病気をし、自分一人では生活が難しかった時に、助けてもらったこともあります。頼れる人がほとんどおらず、助けがなければ生きていけない状況に置かれた時期もありました。
だから、この関係は「嫌ならすぐ離れればいい」という一言で片づけられるものではありません。助けられたことを認めるのと、苦しいことを苦しいと言うのは、どちらか一つしか選べない話ではないと、僕は思います。
お互いが離れにくくなるような関係のあり方もあったのかもしれません。ただ、名前をつけて終わりにするより、今、誰が何を担い、何に困り、どうすれば安心と生活を守れるのかを、少しずつ見ていきたいです。
僕が守ってきたものと、これから手放したい負担
僕は、自分自身も不調や疲れを抱えながら、人や動物たちに起きる問題を見過ごさないようにしてきました。危ないことを予防したり、小さな訴えに気づいて動いたり、自分にできることを続けてきました。
僕が守ろうとする行動を邪魔されることもたくさんありました。それでも向き合ってきたから守れたものがある、と今も思っています。やってきてよかったとも思います。
同時に、いつも僕が気づき、考え、説明し、誰かの分まで責任を背負い続けることには、とても疲れました。頭が痛くなることもあります。これからは、その負担から少しずつ解放されたい。その気持ちも、ようやく自分で認められるようになってきました。
曲「良心」の、次の歌詞にも重なります。
「いい子だから」 我慢させるな
「優しいから」と 甘えるな出典:TK369「良心」歌詞より
気づく人がいるから、その人に任せきりでいい。守ろうとする人がいるから、その人だけが無理をすればいい。そんな暮らしでは、その人の優しさも体力も、すり減ってしまいます。僕がこれから負担を手放したいと思うのは、大切な存在をどうでもよくなったからではありません。守る責任を、一人で背負い続ける暮らしを変えたいのです。
大人が、安心をつくる側になる
僕が願ってきたのは、人や猫たちの小さな訴えに気づき、温かく応じられる暮らしです。ご飯を出したら実際に食べたかを見る。変化があれば自分の思い込みだけで決めず、様子を確かめる。危ないことが起きないよう、それぞれが自分にできる準備をする。
それは、完璧な人間になれという意味ではありません。病気や障害などで一人では難しいことがあるなら、助けを求めたり、できる人と分担したりしていいと思います。大切なのは、できないことを隠して他人を悪者にすることではなく、自分の行動と向き合い、必要な助けを受けながら、実際の暮らしをよくしていくことです。
僕自身も、自分の至らなさから目をそらさずにいたい。そして、誰かが安心をつくろうとしている時には、それを壊すのではなく、一緒につくる側でありたいと思います。もし僕のそばに、人や動物の小さな訴えに気づこうとしてくれる人がいたら、僕は心から「ありがとう」と伝えたいです。
当たり前のように思える願いが、僕には長い間、叶いませんでした。それでも、僕は温かいものをつくることを諦めたくありません。大切な存在を大切に思い、良心を持ち、自分たちの暮らしの中で安心を守っていく。その側に、これからも立っていたいと思います。
良心を守ろうとする人を、守る人になってほしい
この曲で僕が伝えたいことは、今回書いてきた経験と深くつながっています。良心を持って生きることを、その人一人の頑張りだけに任せないでほしい。良心を傷つける側に染まるのではなく、それを守る側になってほしいという願いです。
その人だけに 背負わせるな
良心はみんなで 守るもの出典:TK369「良心」歌詞より
小さな訴えに気づいた人へ「ありがとう」と伝える。誰かを悪者にする話を聞いても、そのまま広めず、実際に何が起きたのかを確かめる。人や動物の安心を、一緒に行動して守る。僕は、そういう大人が増えてほしいと思っています。
曲の中の「良心の 保護者になれ」という言葉には、誰かを守ろうとする心を、今度は周りが守ってほしいという思いを込めています。僕自身の経験から、今、伝えたい言葉はこれです。
良心を守ろうとする人を、守る人になれ。
僕も、これからその側に立って生きていきたい。温かい暮らしを願う自分の心と、その暮らしをつくろうとする人を、大切にしていきたいと思います。
関連記事
参考資料
- 米国の猫の獣医療団体 Feline Veterinary Medical Association:猫の食事と環境についての案内(英語)
- 米国コーネル大学獣医学部:猫への給餌について(英語)
- 米国食品医薬品局(FDA):ペットフードの適切な保管(英語)
- 米国退役軍人省・国立PTSDセンター:トラウマを思い出させる手がかり(英語)
参考資料は、猫の食事環境や記憶の手がかりについての一般的な説明です。こすけが今回食べなかった理由や、僕や同居人の診断・動機を示すものではありません。
曲「良心」を、いつもの音楽サービスで
今回の経験と重なる願いを、言葉だけでなく音楽でも届けたくて、この記事に「良心」を添えました。僕がTK369名義で、Suno AI(音楽生成AI)を使って制作した曲です。記事のプレーヤーからも聴いていただけます。
Apple Music、Spotify、YouTube Music、Amazon Musicなどへのリンクを、公式の配信案内ページにまとめています。よかったら、歌詞に込めた思いを、曲と一緒に受け取っていただけたらうれしいです。
参考文献・外部リンク
- 01. 猫の食事環境についての資料 https://catvets.com/wp-content/uploads/2025/02/FelineVMAHowtoFeedCat_Web.pdf
- 02. トラウマを思い出させる手がかりについて https://www.ptsd.va.gov/understand/what/trauma_triggers.asp
- 03. 米国コーネル大学獣医学部:猫への給餌について https://www.vet.cornell.edu/departments-centers-and-institutes/cornell-feline-health-center/health-information/feline-health-topics/feeding-your-cat
- 04. 米国食品医薬品局(FDA):ペットフードの適切な保管 https://www.fda.gov/animal-veterinary/animal-health-literacy/proper-storage-pet-food-treats
- 05. 「良心」/TK369を聴く・配信ストアを選ぶ https://linkco.re/TQGebdPg


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